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ソウルを歩く旅 その4 ~コピー商品の勧誘

ソウル3日目、南大門市場で時計を探すことになった。夫が旅行前からずっと欲しがっていたのだ。市場にある露店の勧誘を退け、人混みをかき分けながら進んで行くと、夫がいきなり鞄屋の店員に腕を掴まれた。そして、そのまま店の奥に引きずり込まれる。その店員は、顔が若干整った、一見やさしそうなお兄さん。日本語をとても流暢に話す。「時計あるよ!見るだけ!見るだけ!気に入らなかったら買わなくていいから!」とお愛想たっぷり話している。こんな執拗な勧誘にあって、ただ事で済むわけがない・・・と半分泣き笑いで私も夫についていった。
韓国は、ブランドのコピー商品の宝庫である。噂には聞いていたものの、実際に自分がそれを買うよう勧誘されるとは・・・予想だにしなかった現実にうろたえてしまった。

最近は取り締まりが厳しいのだろう、露店の人間は、表立ってコピー商品の話はしない。時計が並ぶ商品ブースの前でうろついていると、店員がどこからかポーチを取り出し、その中からコピー商品の時計を見せてくれる。「完璧なコピーだよ」と言って、ニッと笑うのが交渉開始のポーズ。
さて、既に勧誘されてしまった私たち。店の表からは覗くことができないよう、陳列棚で囲まれた場所に座らされた。店員が例のポーチを取り出し、そこから金ピカのロレックス、カラフルなフランク・ミュラーなどを次々出してくる。
価格の相場は1万5千円から。夫が「私たちは、ブランドではなく、もっと安くて普通の時計が欲しい。お金もないし、高いのは買えない」と一応、意見を述べた。私たちの身なりも手伝って、「お金ないンだったら、8000円でいいよ!儲けないけど、しょうがない」と、店員は歩み寄る姿勢を表し始めた。とはいえ、その時計自体、私たちの好みには合わず、うんともすんとも言わないでいた。すると店員は、新たなポーチを持ってくるよう電話で指示した。この南大門辺りでは、こうして(コピー商品の)時計を露店間で持ち回りしながら、販売しているみたい。

やってきたポーチの中から、「ブルガリブルガリ26mm」のタイプが出てきた。紺色の文字盤で、とてもシンプル。それを見た夫は、俄然それが気に入った様子だ。・・・・・しかし、私は逆だった。ブルガリがあまり好きではないこと、バンドを触ると皮膚が引っかかり安っぽいこと、「BVLGARI」のロゴが、日本の冊子の写真(こちらは本物)と比べてかなり違ったことなど、いくつかの情報を瞬時に汲み上げ、「ブランドという概念を拭い去ったとして、普通の時計として8000円は高い」と判断した。そこからは猛烈に反対する姿勢を示した。

私:「正直に言わせてもらうと、この時計のレベルで8000円は高いと思う。そう・・・5000円でも高いよね。バンドも安っぽく見えるし」

店員:「本物だったらもっと高いんだよ!(※20~30万円くらい)しかも、中身は中国製ではなくセイコーだし。アフターケアも3年保証するよ。」

私:(心の中で)「所詮コピーだから本物と比べても意味ないし。セイコーだったら1万円でそこそこのものが買えるし。アフターケアといっても、また韓国に来ないといけないし」
「だとしても、それはあなたの考えでしょ!?8000円で高い、というのは私の価値観だから!(これ以上意見のすり合わせしても無駄だよね)」

こう言い切った瞬間、店員の態度は一変。むっと不機嫌になり、時計をポーチにしまい出した。顔を向けずに、「もういいよ、出て行って」くらいをつぶやいただろうか。
彼の変わり様というか、無駄な時間をこれ以上かけられまいとする、彼の気持ちの切り替えが見事すぎて、私たちはあっけに取られてしまった。

店を出たものの、何か釈然としない。すぐ近くの角を曲がると、おばちゃんが道にシートを広げ、おもちゃのような時計を山積みして販売していた。1個約500円だという。夫は真剣に山をかき分け時計を探し始めた。仕事に使えるシンプルなものはないか、夫婦二人でその場に座り込み、探しだす。おばちゃんも協力的で、「これは?」と次々時計を見せてくる。
結局、シンプルな時計を1つ購入した。500円としてはなかなかの代物だ。お金を渡し、夫がそれを手にはめてみると・・・・・バンドが大きすぎてゆるゆるだった。(皮製ではなく金属製なので、自分では調整のしようがない。)あわてておばちゃんに「これなんとかならない?」と言ってみても、先ほどとはうってかわって冷たい態度。英語・日本語が全く通じないので、身振り手振りで「その辺に修理屋がいるから、その人に頼みな」と言っているようだ。・・・まぁ、500円だから文句も言えまいか。

後日談:この南大門市場のあと、高級ブランド店があるロデオ通りを歩いていると、ブランドの中古ショップがあった。さきほどのブルガリが置いてあるか確認してみると・・・本物がショーケースに置かれていた。中古で約23万円。

夫:「やっぱり、さっきの8000円で手を打てばよかったぁ~!!」とくやしがる。
私:「でも所詮コピーだよ?」。
夫:「でも本物は23万円もするんだよ!8000円で酷似した時計が買えれば安いじゃん」
私:「???」

・・・これ以降、二人の「ブランド」に関しての考え方の溝が埋まらず、議論しても無駄であることを悟る。夫が欲しければ買えばよい、余計な口出しはやめよう、と心に決めた。
それにしても、「ブランド」って、その正体は一体なんなのか頭がこんがらがってきた。一種の新教宗教みたいなモノ?それとも、人に安定した評価をもらえる安心料みたいなモノ?
by miyarinco | 2005-05-16 19:13 | 旅行(海外)


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